SCO の嘆願書に関する USENIX の反論

2004年 2月 27日、米国の学会 USENIX は SCO が米国議会にあてた嘆願書 に対する反論を発表した。USENIX はこの文書を米国議会に提出する予定。

USENIX (Advanced Computing Systems Association) は 計算機科学にかかわる米国の技術者および研究者の団体である。1975年に設立されて以来、 長年 UNIX の発展に寄与している。

原文は http://www.usenix.org/about/sco.html から入手可能。

2004年 2月 27日

先ごろ、SCO Group Inc. (以下 SCO) は IBM および Novell に対して訴訟を起こし、 Linux の自由なライセンスをふくむ、いわゆるオープンソースライセンスと 呼ばれるものの法的および経済的な正当性について、広範囲な攻撃を開始しました。 計算機研究者および開発者のための技術と貢献の進歩に奉仕する団体として、 USENIX Association は、SCO がオープンソースソフトウエアに対してとる立場に対し これに反論する必要があります。

USENIX は 1975年より、計算機の世界で最先端の仕事をおこなっている 技術者やシステム管理者、科学者および専門家のコミュニティをまとめあげてきました。 USENIX は、SCO よりも前から存在しています。USENIX は、Linux よりも前から存在しています。 SCO が主張するような、革新的な技術を隠蔽しその情報を得るために多大な使用料を課すことよりも、 それを共有することが、計算機プログラミングの進歩をサポートし、よりよい計算機プログラムを 作るために (なおかつ、アメリカの経済を発展させるために) 最善の方法であるということを、 USENIX とその会員は、これまで比類ないほどのやり方で実証してきました。

SCO は、オープンソースソフトウエア、とりわけ Linux やその他多くのオープンソースなプログラムが 無料でライセンスされている一般公衆利用許諾契約 (General Public License, GPL) が 「米国の情報技術産業に対する脅威」であると主張しています。 SCO のプログラマ自身がオープンソースな計算機ソフトウエア開発ツールを利用しており、 この偽善を無視して SCO の立場を説明することは困難でしょう。 ほとんどのポピュラーな計算機開発ツールは、オープンソース開発コミュニティの 貢献をとおして、世界中のプログラマが無料で使用することが可能です。 もしこれらのツールの開発者たちがその使用に対して多大な使用料を課したり、 これらの流通を完全に止めてしまうようなことがあれば、SCO のような商業プログラマや 非商業プログラマのような人々はいっそう悪い事態におちいることと思われます。

とくに SCO は、オープンソースな (フリーの) ライセンスが 「我々の基本的な知的財産権の枠組みを侵蝕する」と主張しています。 この主張はいかなる法的な正当性も含んでおらず、したがって利己的なものでしかありません。 我々の知的財産法には、発明者がその発明に対して、アクセスしたり利用したりするのに 多大な費用を徴収しなければならないという規定はどこにもありません。実際のところ、 多くの場合に計算機ソフトウエアのプログラムを保護する著作権法と特許法はわれわれの 知的財産権の根底をなすものですが、これらはその所有者に対して、どれくらいの ライセンス料を徴収するか、あるいは、そもそも少しでも使用料を課すかということまで 完全な決定権を与えています。

とくに SCO は、オープンソースソフトウエアが 「我が国の敵、または潜在的な敵に対して、合衆国法の制限する計算能力を与える 潜在的可能性をもっている」と主張しています。知的財産法は、海外における計算機プログラムの 使用に制限を課すのに適切な場所ではありません。それらは我々の輸出規制法の範疇です。 ここに見られる知的財産のライセンスと輸出規制との混同は、いかに SCO の議論が 破綻しているかを如実に示しています。さらに米国輸出管理局は、ほどんどの計算機ソフトウエアプログラムの 流通を地理的に制限することは不可能であると認めています。 いかなる出来事においても、ソフトウエアプログラムが使用料を課して ライセンスされるか無料でライセンスされるか、また、革新的な技術を隠しておくか共有するかを 法律によって定めることはできないのです。

さらに SCO は「個々のオープンソースの導入は、ライセンスされ、 著作権が守られたプロプライエタリなソフトウエアの販売を横取り、あるいは排除するものだ」と 主張しています。これは、そのオープンソースなアプリケーションがそのプロプライエタリな対応物よりも 優れているか、あるいは少なくとも等価であるときにのみ正しいものです。 アメリカでは、つねに市場こそが最高の調整者であると力説されてきました。 高価な製品は、より安価で品質のよい代替物の導入を促進します。 知的財産法は資本主義のこの基本的な原則を変えることはありません。 競争から保護されたいという SCO の要求は、とりわけその製品が そのオープンソースな対応物よりも劣っている場合には、理解できます。 しかしながら知的財産法に対して、 市場の平常な運営から SCO の保護を 期待するのは不合理です。

知的財産法はつねに、競争者から発明者を保護する必要性と、 社会がその発明の利益を亨受できるようにして、需要と供給の原理を通じ その価格を市場が調整できる必要性との間の均衡を保ってきました。 いままで知的財産法が発明者に、それよりも安価な代替物との競争に対する 絶対的な保護を与えたことはありません。たとえば、著作権法は複製のみを 保護するものです。もし代替物となるプログラムが複製でなければ、 それらは権利を侵害してはおらず、市場で元のプログラムとの自由競争を おこなうことができます。 安価あるいは無料の代替物と競争できない発明者は、それ以外のものを 売ることを余儀なくされるでしょう。 オープンソース開発者が我々の知的財産権の枠組みに損害を与えており、 我々の技術産業の生存可能性を脅かしているという SCO の主張は、知的な誠実さを欠いています。 実際のところ、革新的な技術を共有し、 これらを無料で使用可能にするというオープンソースコミュニティの実践は、 開発を刺激し技術部門を鼓舞するものになっています。 世界中の Web サーバの大多数を制御するソフトウエアから、 デスクトップにおける仕事を簡単にするソフトウエアまで、 オープンソース開発はアメリカの経済を発展させています。

社会は、消費者が選択肢をもち、製品がその機能と価格とで互いに競争しており、 なおかつ発明者たちが自分のアイデアを共有できて新しい発明が促進されるときに、 なお一層よい状態となります。USENIX は、自分たちのプログラムに対し料金を課すかどうか、 あるいはそれらをフリーで使用可能にするかどうか選択するプログラマ達の権利を支持し、 我々の知的財産法に生来的に備わっている均衡を変更しようとするいかなる試みに 対しても反対します。

敬具

Marthall Kirk McKusick
USENIX 理事長


翻訳: Yusuke Shinyama